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　神奈川台場跡・神奈川宿を歩く

*　歴史の道散策ツアー　*

２０１０年５月１６日（日曜）

東神奈川駅前の参加者・案内者

横浜商工会議所北部支部が継続的に開催している「わが町かながわ小旅行」という企画にはじめて参加してみた。あらかじめ二人で参加するように実行委員会に申込をし、薄曇りで暑くも寒くもない５月１６日の日曜、朝９時半・東神奈川駅東口集合とのことなので夫婦二人で８時に家を出た。
　９時過ぎには東神奈川に着き受付を済ませたが、皆早くから集まっているようだ。参加者は約１００名、１２の班に分かれて付添った協力団体・神奈川区いまむかしガイドの会のメンバーの解説を聞きながら神奈川台場や宿場関連の史跡を訪ね歩いた。平城の都・奈良の歴史の道は遙かに遠い昔の道であるが、今回の歴史の道は明治維新前後の比較的身近な過去であり、一部は幼い頃の記憶にも残っている道もあり、感慨深いものがあった。

　ガイド役の後藤さんは定年後に始めたらしいが、よく勉強しているようで説明も分かりやすかった。１０時に東神奈川駅東口を出発、神奈川宿に近い旧東海道の松並木道であった細い路地を歩き始める。通りから路地に入るとまず金蔵院の前を通る。ここは平安末期に創建された古刹で、神仏混淆の時代には近くの熊野神社の別当寺であり、神社は寺の境内にあったが、明治政府の神仏分離令で神社は分離されたとのこと。

金蔵院山門

金蔵院本堂

そこから数十メートルの場所に子供の頃権現様と云っていたこの地の鎮守、熊野神社がある。この神社も創建は平安末期とのことだが、当初は近くの権現山(現在の幸ヶ谷公園付近)に勧請され、1712年金蔵院境内に遷された。明治になって神仏分離のため現在地に遷されたが、戦災で消失、戦後も米軍に土地を接収され、接収解除まで西神奈川の仮殿に遷座した。愛嬌を感じさせる鳥居脇の大振りの狛犬は米軍により倒され放置されていたが、氏子の職人により復旧され、新しく再建された社殿や付属建物を含めて現在の姿になったようである。

熊野神社境内	熊野神社本殿
熊野神社境内	熊野神社狛犬

熊野神社のすぐ近く、道路脇に資料に基づいて復元された江戸時代の高札場モデルと説明板が立てられていた。

高札場説明板

高札場復元見本

このあたりには江戸に近く、横浜沖に停泊する船との連絡も良いことから開港当時、欧米列国の領事館となったり、宣教師の宿所になったお寺が多い。熊野神社に近い成仏寺には当初オランダ領事館が置かれ、その後アメリカのヘボン博士やブラウン、ゴーフル等の宣教師の宿舎になっていた。また慶運寺にはフランス領事館が置かれていた。

ヘボン等の宿舎であった成仏寺

外国人宣教師宿舎跡の史跡碑

ここから近くを流れる滝の川に沿って広い国道15号線の神奈川警察署の傍に出た。この通りの信号柱には浦島太郎伝説にちなんだ亀と波をかたどった飾りが付けられている。ここから道路の反対側に渡り、狭い路地を入ったところ、勝海舟が設計した神奈川台場の跡地に最近整備された台場公園に着いた。市域の発展と共にこの台場周辺は完全に埋め立てられ、ＪＲの貨物線が走っていたが、最近その石垣が発見され、公園として整備されている。公園には台場の説明図がついた案内板が設置されており、現存する石垣の一部も柵で保護されている。しかし周辺はまだ雑然としたゴミの堆積場のような感じで、整備はまだ半ばのようだ。

信号柱の亀と波の飾り	ビルの谷間の台場公園
台場公園でガイドの説明を聞く	台場公園の石銘板
現存する石垣の一部	台場跡の説明板
公園の案内説明図

公園の案内説明図 （４枚の公園案内説明図は画像をクリックすると大きく表示され、説明文も読めます。）

お台場跡から路地を抜けて広い道に出る。ここは中央市場へのメイン道路で、かつては横浜市電が通っていた道だ。ガイドの話では市電開通時には国道１５号に走っていた生麦線の神奈川会館の前、市場への道路の入口が中央市場前停留所であったが、その後そこから市場前まで単線の線路が敷かれ、市場の前が中央市場前停留所になり、元の中央市場前は神奈川会館前になったとのこと。子供の頃の記憶ではこの市電は７系統だったと思うというと、ガイドが見せてくれた写真には確かに７番の札を付けた電車が写っていた。
　万代橋を渡り、日曜で静まりかえっている市場を見ながら道路の反対側を引き返す。万代橋のほかに、この運河には千代橋、百代橋という名の橋もあるそうだ。橋のたもとで主催者のサービスによるケーキとお茶をいただいて、神奈川公園に戻った。この公園の角にあった神奈川会館の建物は今はないが、館内を飾っていたステンドグラスは神奈川図書館などに保存されているとのことだ。シャクナゲが見事に開いた公園内には近くの子供連れの親子たちが遊んでいた。

神奈川公園	公園のシャクナゲ
神奈川町・青木町本陣説明パネル	白鷺がいた滝の川

東海道に宿駅・伝馬制が敷かれた際、市域に最初に設けられた神奈川、保土ヶ谷の宿の一つ、神奈川宿には滝の橋を挟んで東の神奈川町本陣、西の青木町本陣として、石井家、鈴木家が任命されたとの説明板が国道１５号線沿いの滝の橋のたもとに設置されている。滝の川では白鷺が餌をついばんでいた。

　ここから再び国道を渡り、滝の川沿いに歩くとかつて東海道の名水井戸として知られた宗興寺に着く。この大井戸は現在寺の境内の外の道路脇になっているが、復元・保存されている。

東海道の名水井戸

大井戸の説明板

開塔山宗興寺はヘボン博士が成仏寺から移り住み、同じく宣教師で医師のシモンズとともに無料で施療したことで知られる曹洞宗の寺院である。創建は明かではないものの室町時代以前のようだが、いまはお寺らしくないモダンな建物になっている。入口近くに昭和三十一年に立てられたヘボンの顕彰碑があり、当時の横浜市長飛鳥田一雄の名が刻まれている。前述の大井戸の水はヘボンやシモンズが利用しただけでなく、徳川将軍や明治天皇の通行の際にも飲用に供されたと云われている。
　ヘボン博士は宣教師・医師としてだけではなく、ヘボン式ローマ字の創始者としてよく知られているが、本名はJames Cartis Hepburn：ヘッ(プ)バーンで、日本人との付合いで分かりやすいようにヘボン(あるいは平文)と自称していたようである。

宗興寺の全景	お寺らしくない構えの玄関
玄関脇のヘボン顕彰碑

宗興寺から坂道を登ると幸ヶ谷公園にたどり着く。この辺り一帯がかつて権現山といわれた地区であるが、お台場の構築で岩が削られ、また鉄道の敷設で切り通しが拓かれてかつての山容は感じられない。明治２７・８年戦役の戦没者慰霊碑が幸ヶ谷公園に設置されている。

権現山の説明板	明治27/8年戦役戦没者慰霊碑（幸ヶ谷公園）
普門寺説明板	甚行寺説明板
甚行寺の仏公使館跡石柱	甚行寺

幸ヶ谷公園から洲崎神社の境内を抜けると宮前町に出る。子供のころよく祭礼に出かけた記憶がある洲崎神社の境内は、薄暗く寂れているようで淋しく感じた。この近くには洲崎神社の別当寺・洲崎山普門寺、フランス公使館に当てられた甚行寺もある。
　京浜急行の神奈川駅を横に見て青木橋を渡り、急な坂道を登って本覚寺に着く。ここは高台でアメリカ領事館が設けられたところ、当時は東海道が真下を通り、その先がすぐ海で見晴らしが素晴らしかったことだろう。
　青木山本覚寺は約八百年前に臨済宗のお寺として創建されたが、権現山の合戦で兵火に会い荒廃していたのを、曹洞宗の陽広元吉禅師を住職に迎えて再建され、以後曹洞宗の寺院として現在に至っている。幕末期にはアメリカ領事館として接収され３年間を過ごした。かつては広大な寺域に多くの堂宇があったとのことだが、明治・大正期には鉄道や道路の整備に土地を収用されて寺域も狭められ、関東大震災や横浜大空襲の被害も大きく受けた。空襲で行基作と伝えられた地蔵菩薩も灰となり、山門と鐘楼のみが残されたが、檀信徒の尽力で再建された。
　山門脇には幕府での積極的な開国論者であり、米露英仏蘭という列強との修好条約に大きな役割を果たした岩瀬肥後守忠震の顕彰碑、アメリカ領事館跡の石碑が立てられている。

本覚寺の山門	本覚寺山門脇のアメリカ領事館跡石碑
本覚寺山門脇の岩瀬忠震顕彰碑	本覚寺本堂

本覚寺を出て三宝寺の前の急な坂道を高島台に登る。八十路を迎えた体にはきつい坂だ。坂を登りきった高台は広大な高島嘉右衛門の屋敷があったところ、今は高島山公園として一部その面影を残している。嘉右衛門は望欣台と名付けたこの高台から横浜の変貌を見つめていたことだろう。現在公園に立てられている石碑はもと嘉右衛門邸内に立てられていたものとのことである。高島嘉右衛門は鉄道の敷設に際して海を埋め立てるなど、横浜の発展に忘れてはならない人物である。高島台、高島町など彼の名前は市内随所に残されている。

三宝寺説明板	鉄道開通当時の高島台からの展望
高島山公園	高島山公園の門柱
高島山公園の望欣台の碑	望欣台の碑・説明文
望欣台の碑の説明板　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　高島嘉右衛門の説明板

丘の上を一回りして坂を下り、私学の支援に力を尽くした内山岩太郎神奈川県知事の像が建てられた私学会館の前を通り、旧東海道だった道に出る。ここに袖ヶ浦見晴所と神奈川台関門跡と刻まれた石碑が立てられている。開港当時大名行列を無視した騎馬の英国人を殺傷した生麦事件など外国人に対する傷害事件を各国領事から非難され、対処を要求された幕府が治安の確保のため関門・番所を設けることにし、鶴見橋際と神奈川台に神奈川宿東西の関門を設置したが、これは明治になって廃止された。袖ヶ浦は広重の浮世絵「東海道五十三次」にも描かれ、東海道を旅する人にとって絶好の見晴らし所で、かつては多くの茶屋があり旅人で賑わったところである。

袖ヶ浦見晴らし所と関門跡の石碑
神奈川台関門の説明板	神奈川台茶屋の説明板

広重の絵にも描かれた旅籠「さくらや」はのち、下田屋として高島嘉右衛門の経営になっていたが、これを買い取った昼間弥兵衛が田中屋と名前を変えて、現在の料亭田中屋に続いている。ここでかつて坂本龍馬の未亡人「おりょう」が働いていたとのこと。しかし女将の説明では仲居としてはあまり働き者でなく、月琴の演奏や英語が多少できることから店で重宝がられたような話であった。

旧東海道筋にある料亭田中屋	おりょうについて説明する女将
神奈川宿と田中屋の看板

このあと急な石段を下りて、鶴屋町の通りから横浜駅西口の鶴屋町郵便局まで歩き、今回の散策ツアーは解散となった。ちょうど午後１時、出発から３時間、この間いろいろ案内・説明して頂いたガイドの方々に礼を述べて別れ、地下街で昼食を済ませて、重い足を引きずりながら家路に就いた。

全行程図

歴訪箇所：金蔵院・熊野神社・成仏寺・慶運寺・神奈川台場公園・中央卸売市場・神奈川公園・
　　　　滝の川・神奈川本陣跡・神奈川大井戸・宗興寺・幸ヶ谷公園・洲崎神社・普門寺・
甚行寺・本覚寺・高島山公園・私学会館・神奈川台関門址・料亭田中屋

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2010.5.20 開設　2010.5.25 追記更新