学生時代最後の夏
** 白馬岳から黒部渓谷へ **
大学生活最後の年の夏休み、予科時代からの親友と連れだって白馬登山を計画しました。病気療養中だったＳを除き、Ｋ，Ｙと山歩きの経験豊富なＡを仲間に引き込み、私を含めて４人で行動を起こしました。昭和２５年の夏です。写真以外に、出かけた日やどんな計画をたてたかの記録も記憶も残っていませんが、Ａをリーダーに新宿から夜行列車に乗って松本から信濃四谷に向かい、白馬岳に登山して、黒部に下り富山から帰るような計画だったと思います。
装備などＡのアドバイスを受けて支度をし、新宿から乗った夜行列車は登山客で満員(床にまで横になって寝ているような)だった気がします。中央線松本から大糸南線に入り、当時終点だったと記憶している信濃四谷駅(現在の白馬駅)に着きました。バスに乗ったか、どこから歩いたかの記憶もありませんが、金剛杖を入手して山に向かいました。麓の道は登ったかと思うと下り坂になったりしてがっかりした記憶もあります。沢づたいの道を登り、高度を上げてゆく途中には両側の山あいの沢から滝というほどではありませんが、水が流れ落ちているのが見られます。登りも険しくなってきて雪渓も見られるようになってきました。そしていよいよ大雪渓に足を踏み入れます。半ば凍ったような雪に滑らないよう足をしっかり踏みしめて登ります。汗をかいたあと急に冷たい空気に触れ、大雪渓を登り切ったころ、風邪をひいたのか体調がおかしくなり同行者に心配をかけてしまいましたが、お花畑で休憩して元気を回復、もう一息という思いで上に向かいました。尾根に出ると雄大な景色が広がり、疲れも吹っ飛ぶ思いがありました。白馬山荘は尾根の先の方に見えていました。この日はこの山荘に泊まり、翌日に備えました。
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翌日は快晴、白い雪がまぶしいばかりでした。山荘の前で記念写真を撮り、雪渓を頂上に向かいます。白馬岳は標高2932メートル、周囲の北アルプス一帯が美しい山並みを見せてくれました。Ａがいろいろ説明してくれたのですが、今写真を見てもどの峰がどこの山か思い出せません。しばらく展望を楽しみながら尾根歩きをしたのち、黒部への下山に入りました。この日の目的地は祖母谷、露天風呂があるというＡからの情報でここでキャンプをする予定でした。途中の情景は記憶にありませんが、谷に降りて祖母谷の流れに沿って下ってきたと思います。人一人がやっと渡れるような吊り橋を渡り、露天風呂の近くの河原に天幕を張ってキャンプの準備をしました。一人ずつ吊り橋の上での写真を撮ったり、キャンプファイアをして楽しみました。当時はまだ規制がなく、こんな事が出来たのですが、今では不可能な事でしょう。天気予報は聞いていましたが、天候の急変で大雨でも降ってきたら、流されていたかもしれませんね。
一晩を河原で過ごし、周辺を散策したりして半日を過ごし、当時欅平まで敷設されていた関西電力の作業用トロッコ列車(現在の黒部峡谷鉄道)に便乗させてもらい、鐘釣温泉に向かいました。ところが鐘釣についてみるとここの温泉宿は前年火事をだして焼けてしまい、営業停止中でした。やむなく先に行こうとして鐘釣駅に戻ってみると先程乗ってきた列車が最終列車で、その日の便は終わっていました。困り果てて線路づたいに先に行くと、次の駅・猫又の近くに水力発電所がありました。事情を話して一晩泊めてもらえないかと頼んだところ、我々が電気科の学生であるということが効いたのか、ここ黒部第２発電所の所長が快く受け入れてくれました。所内の見学案内をしていただいたり、屋上で記念写真を撮ったりした上で一晩ご厄介になりました。当時の方はご健在ではないかもしれませんが、本当にありがとうございました。翌日お世話になったお礼を述べて再びトロッコ列車に便乗させていただき、宇奈月へ。そこから富山地方鉄道で富山に出て北陸線経由で帰京した筈ですが、最終日の記録は写真もなく、まったく記憶に残っていません。
後年(1993年7月)再び黒部を訪れる機会がありましたが、当時建設調査にかかっていた黒４ダムも完成し、鉄道、バス、トロリーバス、ケーブルカー、ロープウェイ、バス、鉄道を乗り継いで、殆ど歩かずに回れる(コースは異なりますが)ようになっており、便利になったものと感心するとともに、当時秘境といわれていた欅平から上流の黒部渓谷の自然環境がどれだけ損なわれたか気にかかるようになりました。（黒部再訪の旅）
開設：2005.8.7 修正：2005.9.7（リンク追加）